秘密というものは、誰かしら持っているもの。 それは、この二人とて例外ではないようだ。 「……むう」 「ん、どした?」 服を脱がせにかかっているクルツが、きょとんと宗介の方を見た。 「いや……。いつも思うのだが」 「おう」 「こんな所を誰かに見られたらと思うと、気が気ではないような」 宗介はちょっとこめかみに脂汗を垂らしながら、珍しく弱気な口調で呟いた。 それは、二人だけの秘密。 男同士だというのに、恋人同士のように抱き合う。 じゃれあうように唇を求めて、何かに取り憑かれたようにお互いの熱を求めて。 本来なら、禁忌とも思えるような行為なのに。 それでも彼らは、求めることをやめない。 「そーいう時は、『プロレスごっこ』とでも言うのがセオリーだな」 「プロレス……接近戦の模擬とか、そういうものか」 「お前、ほんっとにお約束ってもんをしらねーのな」 素朴に返した宗介に、クルツは苦笑いを浮かべた。 どちらかというと女性の数が少ない傭兵業界では、男性同士で肉体関係を持つのは 珍しくない。 でも、やはり二人とも若いので、相手は女の方がいいに決まっている。通説では。 ならば、何故お互いを選んだのか。 それがわかれば苦労はしないが、確かにこういう関係を保っている。 今のところ問題は特に起きないので、この関係は続いている。 「それに」 息を詰まらせながら、宗介が言った。 「あ?」 胸元に愛撫を施しながら、クルツは続きを促す。 「キョーコが、男同士でこういう関係を持つ内容の本を持っていた」 「ほう」 「彼女は、笑ってそれを隠していた。たぶん、見られたらまずいのだろう」 「じゃ、何でお前がそういうの知ってるんだよ」 「背後から見えた」 「……普通、女の子はそういうの隠すからなあ」 しんみりとした声で言ってはいるが、クルツは宗介の身体に確実な熱を与える。 秘密というのは、なかなか難しいものである。 おおっぴらに話すわけにもいかないから、何だか後ろめたい気持ちに駆られるのが常 だ。 でも、二人の関係は続いている。 「……なあ、集中しろよ」 「何故」 身体の奥に感じた何かに、上ずった声で宗介が囁く。 「何か、俺だけ虚しい」 「萎えるか」 「当たり前だ」 やや投げやりなクルツの声に、宗介は諦めて目を閉じる。 「なら。勝手に、やれば、いい」 短く息を吐くように答えた宗介に、言われなくとも、とクルツが彼の足を抱え上げた。 秘密を持つには、それなりのリスクを負う覚悟がいる。 例えば、言葉を失うほどの衝撃を相手に与えたり。 例えば、後ろ指を差されたり。 それでも、二人はこの関係を止める事はしない。 今のところは。 「!」 身体の奥底に深く突き上げられる衝撃に、宗介は喉を詰まらせてきつく目を瞑った。 ゆっくり、次第に強くなるリズムと衝撃の熱さに、彼の身体は確実に反応する。 それに比例するように、声が徐々に高くなる。 クルツの肩をつかんだ指先に、力がこもる。 金色の髪が宗介の胸元にかかり、愛撫するかのように揺れる。 「……う、あ……っ!」 「……っ!」 言葉にならない、声が迸る。 互いの熱を求め、飽きることなく唇を求めて。 二人だけの秘密を、誰にも明かすことはなく。 そして、秘密の関係は続いている。 東京で過ごした休暇が終わり。 「……あ……っと、クルツ」 「あ?何、姐さん」 メリダ島の基地の通路ですれ違ったマオに、声をかけられる。 「あんた、ソースケの所に遊びに行ってたんじゃないの?」 「……そうだけど、何で」 「……肩の辺り、引っかき傷が出来てる」 「あ」 真っ青になって肩の辺りを凝視するクルツを、彼女はにやにやと見ていた。 そして、もう一つ。 他人にとってその人物の秘密は、何よりのご馳走である、かもしれない。 |