「急に呼び出してすまんな。相良くん」 「いえ、閣下の御用命ならば」 やたらと厳粛な空気が漂っているが。 ここは、立派な陣台高校の生徒会室で。 彼――林水の目の前には、呼び出した男子生徒――相良宗介がいた。 「呼び出したのは他でもない。君に、ひとつ言わなければならないことがあるのだ」 「は」 宗介の方はいつものように落ち着いた口調で対応しているが、当の林水はなかなか 落ち着きを取り戻せなかった。 今日こそ、言わなければならない。 だが、どうしても伝えられないのだ。 何故伝わらないのだろう? 成績優秀、容姿端麗。涼やかな風貌とあいまって、女子生徒の人気も高い(本人は自 覚していないが)彼にとって、これは由々しき事態なのだ。 「……相良くん」 「はっ」 「君は、好意というものについてどう考えるかね」 「……自分としては、難しい質問です」 歯切れの悪い返答だった。 「ふむ、それは何故かね」 「自分は、常に理論と想定を重きにおいて実行します。さもないと、命にかかわる事態さ え招きません」 「なるほど。私としての意見を言わせてもらうが……」 そう切り出して、林水は熱っぽく語り始めた。 人間の心理から経過、そして感情論にいたるまで。 聞いている宗介は律儀に頷きを返し、時々短い相槌をうつ。 「……というわけだが、理解してもらえただろうか」 「さすがは閣下。非常に素晴らしい演説です」 ぱんぱんと手を叩き、宗介は感銘を受けていた。 「そうか。それならば、君の意見を聞きたいのだが」 「自分の意見ですか」 「うむ」 彼はなんと言ってくれるのだろう? これほど深い感銘を持って自分を見ているのだから。 林水はじっと宗介を見て、答えを待つ。 「自分としての意見は、非常に理に適っているかと思われます。何故ならば……」 宗介が打ち明けたのは、これからの学校の保安に関する推察と提案であった……。 「……閣下、では、自分はこれで失礼いたします」 「うむ。長々とすまなかった」 「いえ。閣下の御用命とあらば」 からからと扉が閉まるのを確認して、林水はため息をついた。 彼にしては、非常に珍しいことである。 「……また、打ち明けられなかったか」 自嘲気味に笑う。 けれど、いつかは来るはずだ。自分の秘めた想いを彼に伝えられる日が。 「……しかし」 呟き、彼は首を捻って。 「何故、学校の保安に関する話題になったのだろう?」 答えは簡単である。 宗介は、林水の言った『好意』の単語を『行為』と間違えていただけだった。 陣台高校生徒会長、林水の春は、まだ遠そうである。 なお、宗介はそんなことも知る由もなく。 「……何故来ている?」 本来ならば来るはずのない同僚が目の前でへらへらと笑っているのを、呆然とした顔 で聞いてきていた……。 |