「……何をやっている」 人の部屋に入るなり、目の前で立っているソースケは一言言った。 部屋の片隅で片膝を立てて、ぼんやりと紫煙を燻らせている俺に。 「何って。気分転換」 「気分転換が煙草とは、お前はほとほと身体を悪くするのが好きらしいな」 あ。珍しく、棘のついた台詞かましてきやがる。 別に、何でもない。 俗的な法律では、『煙草と酒は16歳から』とも云われているのだ。 (作者注・そんな法律はありません) でも。 目の前のむっつりと口をへの字に曲げているこいつ---サガラソースケには、言われる筋合いはなかった。 実際、こいつときたら。アルミの灰皿と無造作に口を開けたラッキーストライクを見ただけで、この台詞だ。 というわけで。 「なに。じゃ、何しに来たんだよ」 「別に、用事は、ない」 ……。 まさか、ひょっとして。 「……ヤられに来た?」 俺の言葉に、奴はさらに不機嫌な顔をして。 「ふざけるな」 と、冷たく言い放ってきた。 あーあ、つれねえでやんの。 てーか、別に今に始まったことじゃない。ちょっとしたことがきっかけで、俺とこいつは変な関係を持つようになった。 簡単にいえば、男と女がやるような……ことだ。 軍隊ってのにはそのケの奴がよくいるから、別に珍しいことじゃない。 そもそも女の少ない世界の中でじっと我慢して任務をこなせなんて修行じみたことが、できるわけがないのだ。世の男どもには。 「あっそ」 「クルツ?」 訝しがるソースケをよそに、俺はひょいと立ちあがり、奴の方に近付いた。 何のてらいもなく奴の右腕をつかんで、ぐいと引き寄せる。どうやら、信頼できる奴の突拍子もない行動にまるで警戒心がないらしい。 案の定、ソースケはわたわたとつんのめるように一〜二歩前に踏み出した。 そいで。 目を閉じて、俺は奴の唇を塞ぐ。 ソースケはちょっと驚いたみたいだったが、やがてこっちに任せてくれる気になったらしい。 何度となくしているはずのキス。 唇を重ねて、舌を絡めあうほど強く、甘く。 でも、この日は妙に新鮮に覚えた。 ふと、唇が離れた時。 「……煙草くさい」 「何、やっぱわかるのか?煙草くさいって」 「当たり前だ」 冗談めかした俺の言葉に、やっぱりソースケは憮然とした顔で答えた。 けど、なあ。 俺もなんだかんだいって、こいつに弱い。 「へいへい。お叱りなら存分に受けましょ。ベッドの上でな」 奴の肩をぽんぽんと叩きながら、俺は部屋の中へと迎え入れた。 たまたま、俺が煙草を吸ってて、こいつがそれを見つけた。 それだけの話なのに、やけに今夜は新鮮な気分だった。 何のせいだろうとかは、考えないことにしておこう。 |