しばらく続いた雨が上がって、嘘のように青空が広がっている。 千鳥かなめは、鼻歌を歌いながら歩いていた。 「気持ちいいなー。こんなにすっきりと晴れると」 今日は休日だし、どこか行こう。 どこがいいだろうか。 恭子を誘って、遊園地とかでもいいかもしれない。 ふと、見上げると。 「……」 かなり珍しい風景を見た気がして、まずは目をこすってみる。 しかし、幻覚ではないようで、かなめは慌ててその現場に向かった。 「何か、非現実的なものを見てるわ、あたし」 「……そこまで言うほど変な光景なのか?」 かなめの目の前の人物――相良宗介は憮然な顔で言ってきた。 彼が手にしているのは、今しがた脱水したばかりの洗濯物。 ベランダの物干し竿には、色とりどりの衣服が綺麗に皺を伸ばして干され、暖かな太陽の光を浴びている。 「いやあ、あんたもそうやって洗濯してるってゆーのは……何と言うか、変」 「そうか」 いちいち彼女の言うことに納得して、宗介は頷く。 それでも綺麗に皺を伸ばす作業はこまめにしてはいるのだが。 「でも、気持ちいいでしょ。そうやってお日様に干すのって」 「そうだな。今までは乾燥機をよく使っていたのだが」 手伝うかなめにいちいち礼を言って、宗介は籠から洗濯物を取り出す。 「乾燥機だと、何か味気ないのよね。あったかいんだけど」 乾燥機は、あくまでも濡れた物を乾かすためのものである。 だが、太陽の光は乾かすだけのものではない、もっと大切な何かを与える役割があるような気がする。 これは、結局かなめが感じているだけの見解だが。 「太陽の光で乾かすと、匂いが違うな」 「ん?」 ふと宗介が言った言葉に、かなめはつい顔を上げた。 「何と言えばいいか……自然の匂い、と言えばいいのだろうか」 「……ふーん」 なんだか、嬉しくなった。 彼にも、人間くさい部分はたくさんあるのだ。 何かと戦争に結びつける奴だけど。 ことあるごとに武器やら何やら持ち出して、トラブルを起こすやつだけど。 実は本当に凄い軍人で、悪い奴をこてんぱんにやっつける奴だけど。 ちょっとしたことに感動を覚えることの出来る、血の通った暖かな人間なのだ。 「ソースケ」 「なんだ、千鳥」 「これ終わったら、土手の方に行かない?」 「土手の方で、何があるのだ」 「いいじゃない。お日様の下を歩くのって、気持ちいいわよ」 いぶかしげな宗介に、少し苦笑いを浮かべる。 「もし野球やってたらさ、見学して、混ぜてもらおう」 こんなに気持ちのいい日曜日は。 あなたと一緒に、散歩しよう。 きっと、それだけで楽しい。 |