『if』の続きでもあったり。


「なあ、ソースケ。俺が死んだら……お前、どうする?」
 
 それは、なんでもない口調で尋ねてきた言葉で始まった。
 彼の方をきょとんと見て、宗介はぽつりと一言。
「お前が、簡単に死ぬようには思えないが」
「えー?ほれ、いい男ってのは生い先短いってゆーじゃん」
「勝手に言っていろ」
 視線を手もとの軍事雑誌に戻すが、宗介の心情は穏やかではなかった。


 あの夢が、蘇る。
 血と硝煙の匂いが立ち込める戦場。
 ばらばらになったAS。
 そして――。
 血まみれになった亡骸を、抱く自分の姿。


 心臓が、嘘のように高鳴っている。
 怖くて、辛くて。
 こんな状況には、慣れている。そのはずだった。
 一度にたくさんの仲間を、失ってしまったから。
 でも。
 
「お前は、死なないだろう。少なくとも、俺の前ではな」
「へえ?」
 毅然とした態度を装って答えると、クルツはちゃかすように笑った。
「もしも」
 声が、震えていた。
 知らないうちに。
「もしもお前が死んでも、俺は別に」
「……おい」
「俺は、別に……」
 声が詰まる。
 何故?
 別に、淡々とした想像の話ではないか。
 別に、どうもしない。
 同僚が死んだ。それだけの話だ。
 それが言いたいのに、言葉が出て来ない。
「ソースケ」
 声に気が付いて、宗介はやっと今の状況を判断した。
 クルツの腕が、自分の身体を強く抱きしめている。
「……悪い。俺が悪かった」
 いつもよりも低い、優しい声。
 

 ああ、そうだ。
 怖いのだ。
 あの夢を見てから。
 彼が自分の腕の中で死んでいく、たったそれだけ。
 でもその夢は、いつかはある恐怖となって自分に襲いかかる。
 

「……死ぬな」
 消え入りそうな声。
 絞り出したそれは、いつもの自分の声とは思えないほど弱々しい。

 彼は、卑怯だと思った。
 『もしも自分が死んだら』
 そんな事を聞いて、自分の気を引いて。
 だから、何度も呟いた。
「死ぬなよ、お前は。俺の前で、絶対に」
「判った。判ってる」
「判ってない、お前は……」
 言葉は、彼の唇で塞がれた。
 

 暖かい。そう感じた。
 手のひらから伝わってくる体温が、彼がここにいることを教えてくれる。
 軽い口付けがいつしか、濃厚なそれに変わる。
 舌が入り込んで、自らも同じように絡ませて。
 しばらくそうした後、やっと唇が離れた。
「……は」
 小さく息をついて、宗介は彼の顔をじっと見る。

 もしも、彼が死んだら。
 自分は、正気でいられないだろうから。


「……クルツ」
「ん?」
 彼の身体にしがみついて、小さく。
「俺を、抱け」
 一言。命令口調で。
「……わかった」
 囁いた言葉に、彼は低い声で返した。


 怖いから。
 一人になるのが怖いから。
 だから。
 
 薄暗い部屋の中、響く声。
「あっ、あ……ん……」
 苦しげに喘ぐ宗介の虚ろな瞳に、彼の顔が映る。
 何度も突き上げられ、抉られて。
 それでも、喘ぎながら彼の名前を呼ぶ。
「ソースケ……っ」
「……ルツ……ああっ!」
 

 それが、すべての証明の様に。

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