深い叢の中。 大きな身体越しに見えたのは、残酷なほど綺麗な青空。 それはまるで、研ぎ澄まされたナイフみたいで。 「なんか、拍子抜けだなあ」 すべてが終わって、ずっと組み敷いていた男は複雑な顔をして身を起こした。 今まで、何をされていたのか。 カシムは、分かっていた。 突然押し倒された時、相手の目的に何となく感づいて、覚悟を決めた。 だから、あまり悔しさだとか、屈辱だとかは感じなかった。 ただ、彼にすべてを任せていただけで。 「そういう奴は、いくらでもいる」 初めて、カシムはぽつりと言った。 何人かの男たちは、己の性的欲求を少年の兵士に向けることがある。 実際、金をちらつかせて関係を迫った者もいるわけで。 「んじゃ、何。今に始まったことじゃないってか?」 「そうだ」 着衣が乱れ放題なのも気にせず、カシムは男の問いに答えた。 「しかしまあ、何だ」 叢の上に胡座をかいて、男は黒い髪をぐしゃぐしゃと掻く。 「俺が言うのもなんだが、そいつはちっとマトモじゃないねえ」 「俺も思う」 やっと身体の痛みが引いて、カシムは何とか起き上がった。引き摺り下ろされた衣 服を下着ごと元通りに直し、同じように腰を下ろす。 が、鈍い痛みに小さく眉をしかめた。 「あんまり無理しない方がいいんじゃねえの?」 「無理をさせたのはあんただ」 にやにや笑いで言ってくる男に、カシムはさめた声で呟いた。 何度か回数はこなしたといっても、小さすぎる少年の身体に強いられる苦痛は簡 単に慣れるものではない。 それはわかっている。 わかっている、ことなのだが。 「んじゃ、今度は無理しないようにゆっくりしてやろうか?」 「――まだ足りないのか?」 男の言葉に、カシムは呆れたように問いかけた。 「ああ。まだ足りない」 言って、彼はカシムの腕を取り、力任せに引っ張る。 つんのめる間もなく彼の身体の中に収まり、そのまま強く抱きしめられる。 苦しさに、カシムは彼の顔を見上げた。 「――ああ」 その後ろに見える、綺麗な青空。 雲一つなくて、何もかもない、綺麗な。 「何、やらしてくんないの?」 「……勝手にしろ」 意地悪そうに聞いてくる男の問いに小さく呟くと、カシムはそっと目を閉じた。 「じゃ、もう一度イイ声聞かせて貰おうか」 その言葉の後に、カシムは唇に何かで塞がれるのを感じた。 肌にちくちくと刺さる、無精髭の感触が何故か心地いい。 「ちっと、マトモじゃねえけどな」 カシムの顔を覗きこんで、彼は笑った。 「今の間だけ、マトモじゃなくてもいいよな?」 「そうだ」 頷き、カシムは小さく答えた。 マトモではない。こんな風に、男と寝るという行為は。 だからこそ。 「後ろから、できるか」 「あん?」 カシムの問いに、あっけに取られた顔で聞き返してきた。 「……嫌なんだ、青空を見るのが」 「――まあ、いいけど」 言うなり、彼はカシムの身体をひっくり返した。 突然のことに抗議の声を上げようとしたが、即座に這い回り始めた掌に、小さく細い 息を吐いただけだった。 耳元で、彼が囁く。 「ケダモノみたいに、犯してやるよ」 その淫靡とさえ思える声に、カシムの心は奇妙な安心感に包まれた。 青空を見るのが、怖いから。 研ぎ澄まされたナイフを、首筋に突き付けられている気がして。 |