電子狂に捧ぐ詩・4

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「いらっしゃい。……ミリイじゃないか」
 ドアを開けた途端、野太い声が俺たちを迎えてくれた。
 今、俺たちはブラフマーシティにいる。
 快速電車で、スィーフィードタウンから一時間弱。
 ミリイに引きずられるままに到着したのは、一軒のこじんまりとした喫茶店であっ た。
 店内の広さは『CHAOS』と同じくらいだが、違う点がある。四人がけのボックス席 に、パソコンが置いてあるのだ。
「こんにちわ、ジルさん。さ、二人とも入って」
 促されるまま、店内に入る。
 たった一人でぽつんといる男が、どうやらミリイの父親と知り合いらしい。
 一見、労働者のようではあるが、トレーナーとジーンズのスタイルが、こざっぱりと した印象を受ける。
「ジルさん、この二人、スィーフィードタウンから来たんですって」
 ミリイの紹介を受けて、俺は軽く頭を下げる。
「どうも――ガウリイです。ガウリイ=ガブリエフ」
「あたしは、リナ。リナ=インバースっていいます」
 と、リナも同じように頭を下げた。
「二人とも、ようこそ。ブラフマーシティへ。
 俺はジル。ここで、ネットカフェをやっている」
 ジルさんは、そう言って笑顔を浮かべた。なかなかどうして、人のよさそうな表情 である。
「――あの、さっそくなんですが……『女神』――キャナルについて、どこまでご 存知なんですか?」
 だめでもともと、である。俺は、単刀直入に尋ねてみた。
「女神……キャナルのことか。構わないが――10年前までの彼女しか知らない。 それでも?」
「ええ。お願いします」
 意外にも友好的なジルさんの言葉に、俺は小さく頷いた。
「わかった。それじゃ……話が長くなるから、そこにかけるといい。コーヒーでも淹れよ う」
「わたしがやるわ、ジルさん」
「そうかね、じゃあ頼むよ。ミリイ」
 ミリイの言葉に甘えて、ジルさんは陽あたりのいい席に勧めてくれた。
 勝手知ったる何とやら状態で奥へ消えていくミリイを見ながら。
「……彼女、知り合いなんですか」
「ミリイか?」
 笑顔を浮かべたままのジルさんの問いに、小さく頷く。
「正確には、あの子の父親と知り合いなんだがね。彼女がハイスクールにいた頃 は、よく手伝いに来てくれたもんだよ」
 懐かしそうに目を細めるジルさんに、リナが突然切り出してきた。
「ジルさん。キャナル……『電脳の女神』について、どこまでご存知なんですか?」
 てゆーか、思いきり直球勝負ですけど、リナ。
「キャナルの仕事ぶりだったら、何でも。俺も、昔は『トレジャーボックス』に所属して いたんだからな」
 えっ?
 ジルさんの言葉に、思わず目を丸くした。
「そんなに驚かなくてもいいだろう。5年前に退職して、その退職金でこの店を 持ったんだ」
「ってことは……研究所の事故にも?」
「ああ。あれは、会社にとってもかなりの打撃を受けたと思う。何せ、当時の重要な ブレーン二人を失ったわけだからな」
 遠い目をして言う、ジルさんの右腕。
 捲り上げているトレーナーの袖から、黒い機械の腕がのぞいている。
「この腕は、その当時事故でやったものだ。外見は無傷に見えるんだが、実は感覚 と運動の神経を寸断されてな。今はこうやって、サイバネティックギアの世話になっ ている」
 ジルさんの説明を聞きながら、その当時の事故の惨劇を想像してみた。
 現在、このジルさんのように神経の欠落で手足に障害を負った人がかなりの数で 存在している。
 そんな人たちの為に開発された、リハビリ用の義手や義足――それらは一括し て、『サイバネティックギア』と呼ばれている。
 基本的には、ヒトの脳から発せられる信号をコンピュータが読み取り、その信号に 従って機械が手足を動かす。
 要は、神経の代わりとしてコンピュータが動いている、というわけだ。
 ……話がそれた。
「ところでジルさん、キャナルって、どんな女性だったんですか」
 話題を修正するためか、リナが身を乗り出してきた。
「――いい子だよ。優しいし、大らかで。だが、仕事ではあくまでも一人の人間とし て接してきたつもりだ。
 彼女もわかってたんだろう。自分の持てる技術を全て費やして、会社の為に頑 張ってくれた。
 ――キャナルには、同世代の友達が少なかった。たった12歳で大人の世界に 入ってしまったから、仕方ないといえばそれまでなんだが。
 だから、休憩の時間だけが十代の女の子に戻れる瞬間だった。あいつが、遊びに 来てくれていたからね」
「……あいつ、ですか?」
 長く語ったジルさんの声に、俺はぴく、と反応した。
「ああ。キャナルの――恋人みたいなもんだ。ちょっと待ってくれ」
 そう言って立ち上がると、ジルさんは『どこへやったっけか』なんて言いながら奥に 引っ込んでいった。
 ……しかたない、今までの情報を整理する事にしてみた。
 キャナル=ヴォルフィード――通称『電脳の女神』。
 わずか12歳で『トレジャーボックス』に入社。その2年後、なみいる大人たちを押し のけて『主任』の任についた天才少女。
 だが、その次の年。彼女は突然姿を消した。
 所属研究所の爆発事故によって。
 生きていれば――絶望的といわれているが――25歳の魅力的な女性に なっている……はずなのに。
 何故か彼女は、その『15歳』の姿を留めているという。
 で、気になるのは――その事故だ。
 警察が発表した結果は、『電子機器のショートによる誘爆』とされている。
 だが、これが引っかかる。
 たしかに大量の電子機器があるにしても、その『ショートによる誘爆』に対するセ キュリティは万全に準備されているはずだし、万が一の対策もとっているはずであ る。
 ブレイカーが落ちたとか、停電とかはありえない。
 ……電子機器って、電気で動くもんだからね……。
 たとえその可能性があてはまったとしても、予備の自家発電システムだって作動 するだろうし。
 そもそも、建物ってのは『あらゆる危険を想定し、その上でセキュリティ対策をと る』のが当たり前なんだから、簡単に爆発するはずもない。
 ……どういうことだろうか?
「待たせたな。写真、持ってきたよ」
 情報整理は、そこで中断した。ジルさんが、何枚か写真を持って戻ってきたのだ。
「見せて頂けますか」
「もちろん。たぶん、キャナルの顔を見るのも初めてだろう?」
 俺の言葉に頷くと、ジルさんは写真をテーブルに広げ始めた。
 写真は、4枚。どれも一人の女の子が映っている。
「この子がキャナルだ」
 と、ジルさんが指を差した。
 写真の中のキャナルは、淡いグリーンの長い髪をおさげにして、綺麗な白衣を羽 織っている。
 ただ、あどけない顔立ちと比べると、アンバランスな印象さえ受ける。
「この写真は、いつ頃のものなんですか」
「確か、十年前。事故の一ヶ月くらい前に撮った奴だ」
 なるほど。事故の不安すら感じさせない表情である。
「あの、こっちにいる女の人は?」
 と、リナが細い指を差して尋ねてきた。
「こっちは、アリシアっていってな。当時キャナルのサポートに回ってた。主任捕 として、かなり会社に貢献していた」
 こちらの女性は、ショートカットにした淡いブロンド。キャナルと同じく白衣を着てい るが、彼女の方がしっくりする。
 微笑んでいるその顔には、くっきりと笑いじわが刻まれていた。
 ……あ、ごめんなさい。
「……アリシアは、この後の事故で命を落としたんだ」
 ふと、小さく呟くジルさんに。
 俺は、何も言えなかった。
 きっと、自分の命を捨ててでも、彼女たちを助けたかったのだろう。
 しかし結果として、ジルさんは生き残った。
 彼の呟いた言葉が、後悔の深さを感じたのだ。
 だが――。
「……でも、十年たった今、キャナルは『電脳の女神』として、世間を騒がせている」
「何?」
 はじかれたように、ジルさんが顔を上げた。
「何故だ?あいつが生きているわけがない!焼け跡から、彼女の血痕も見つかった んだぞ!?」
 突然、ジルさんが鬼気迫る顔で俺に言ってきた。
「俺にも、よくわかりません」
 それでも俺は、きっぱりと答えた。
「でも、それだけは事実だから……俺たちは彼女を。『電脳の女神』を捜すんです」
「……」
 しばらくして、ジルさんは何も言わずに写真をもてあそんでいたが。
 不意に、その手が止まった。
「……まさか……?」
「?」
 何がなんだかわからずに、俺はジルさんの言葉を待つ。
「――そうか!もしかしたら、あるいは……」
 ……って、おーい。
 ジルさんは何かに納得したように呟いていた。
 ……えーと、何がどうしたのかわからん。
「えーと、ジルさん。この、男の子は……?」
 あ。
 恐る恐る手を上げて、リナが聞いてきた。
 その視線の先には、先程のキャナルとアリシアの他に、二人の少年が映っている 写真があった。
 一人は、アリシアと同じブロンドの髪。子供っぽさは抜けきれていないものの、大 人っぽい印象を受ける紫の瞳。
 もう一人は、栗色の髪の少年。大きな瞳が、何よりも元気そうな印象を与える。
 ……ただ、この子供たち、どっかで見たよーな気がするんだが。
 気のせいかな……。
「ああ、すまないな、こっちの話だから、気にしなくていい。
 ――で、この二人だな」
 やっと笑みを浮かべて、ジルさんは説明を再開した。
「こっちが、さっき言ったキャナルの恋人だよ。何でも幼なじみだったらしくてな、十 八になったら、結婚するとか言ってたよ」
 と、ブロンドの方を指差して説明するジルさん。
 って、何つーませたガキだ。早いうちからそんなことを公言するとは。
 俺なんか……。あ、俺の事はどーでもいいか。
「でもって、こっちの子はアリシアの孫だよ」
「孫、ですか」
 そう言われてみれば、どことなくアリシアさんの面影があったりする。
「この二人が、よく研究所に遊びに来ていたんですか?」
「ああ、そうだ……」
 リナの問いに答えようとして、突然ジルさんは顔を上げた。
 何かの気配を感じ取ったのか。
 つられて顔を上げれば、新しい客が来ていたようである。
 5~6人の男ばかりのグループだ。いずれも屈強な体つきをしており、黒や紺の スーツを着ている。
 ……てーか、『いかにも』ガラの悪そうな連中だ。
「――」
 ジルさんは、何か言おうとしている。
 ――いや、言おうとしたんじゃない。ただ無言で、男たちを睨みつけただけだ。
「知り合い、ですか」
「――いや。勝手にくるんだよ。こいつらは」
 短く尋ねると、ジルさんは苦々しく答えてきた。
「――ご主人。いいかげん、教えて頂けませんか」
 ふと、男の一人が言った。
「何度言ったらわかる?」
 立ち上がりながら、ジルさんは凄みのある声で続ける。
「知らんと言ってるだろう。『電脳の女神』の居場所は」
「……そうですか」
 小さく息を吐いて、軽く肩をすくめる。
 ってことは、こいつらも『電脳の女神』を捜してるってことかな。
「……何者なんですか」
「彼女を、悪用しようとしている連中だ」
 小さい声で聞いてみると、ジルさんはため息をついて答えた。
「悪用なんて。我々はただ、彼女の素晴らしい能力を世界に貢献してもらうために 捜しているだけですよ」
「ふん。世界は世界でも、『裏』のつく世界だろうが」
 どうやら俺たちの会話は聞こえていたみたいだが、やはり会話の内容にはついて いけない。
 それでは。
 俺は、リナの方に近寄った。
「――もし何かあったら、助太刀に入るぞ」
 目の前の奴らに聞こえないくらいの声量で、彼女に告げる。
「わかった。あたしは、ミリイのフォローに回ればいいわね」
「上出来」
 リナと二人、小さく笑みを浮かべる。
「では、仕方ありませんね。なるべく、穏やかにお伺いしたかったのですが」
 その言葉と同時に、男たちがジルさんを取り囲んだ。周りに、細い糸でも張ったよ うな緊張感が走る。
 そして、俺たちも。
 いつでも行動を起こせるように、身構えて。
「まあ、軽く遊んでやりなさい」
 そう言って軽くてを上げると、他の男たちが一斉にジルさんに襲い掛かった。
 幾ら何でも、多勢だってのはあんまりだ。
 俺はジルさんの助太刀に入ろうとした……。
 が。
 どかっ!!
 ――はい?
 骨の軋む音と共に、一人が数メートルほど吹っ飛んだ。
 俺も――いや、男たちも。意外な現状に、目を丸くしている。
 吹っ飛んでった男のほうを見れば、軽い痙攣を繰り返して口から泡を吹いてい た。
 あ。なーるほどね。
 俺は、何となくだけど。理由がわかった。
 とりあえず、ぼけっと見ている間にも。
 ジルさんの周りを取り囲んだ男たちは、次から次へと宙を舞っていく。
「――で、遊んでやるってのは誰だ?」
 にんまりと笑いながら、ジルさん。高く上げたその手には、襟首を掴まれて伸びて いる男がぶら下がっていた。
 つまり。
 今のジルさんの怪力は、サイバネティックギアの力を借りているのだ。
 どうやら、軍事用のギアを使っているらしい。使用者の意識をコンピューターが感 知して、常人の数倍のパワーが発揮できるようになっているのだろう。
「……く……」
 今まで、ずっと高ビーだった男の顔が屈辱に歪む。
 ……って、あれ?
 俺はふとしたことに気が付いて、『ひいふうみい』と数えてみた。
 一人足りない、のである。
 高ビー男はカウントに入れてないとはいえ……。
 ――まさか!
 俺は、反射的に奥のほうを見た。
 奥にいるのは、二人の女の子。
 リナは昔やってた仕事上、何らかの護身用武器を所持しているとはいえ……。
 パン、パン!
 やけに高く軽い銃声が、店内に響いた。
 あの野郎!
「ジルさん!」
 叫んで、俺は奥に駆け出した。
「――するな――」
 何か言ったジルさんの言葉を訊き直す間もなく、俺はキッチンに続くドアを荒々し く開けて。
「――は?」
 口を、ぽかんと開けてしまった。
「ああ、びっくりした。いきなり殺意剥き出しで入ってくるから……」
 片手に銃を持ったまま、ミリイはさも驚いたように言っていた。
 ……いや、あのー。
 驚いたの、俺もなんですけど……。
 ミリイとリナの足元には、ぱったりと倒れ伏している男。
「――だから、心配するなって言っただろう?」
 俺たちの方にやってきたジルさんが、さっきの言葉を繰り返していた。


 あのあと。
 スーツ姿の男たちは尻尾を巻いて逃げ去り、騒ぎはそれ程大きくなりはしなかっ た。
 でもって、何が何だか分からない俺たちに、ジルさんとミリイはかわるがわる説明 をしてくれたわけで。
 それによると。
 ミリイは何故か、射撃の腕が滅法強い。ハイスクールの頃には、ワールドチャンピ オンになったほどの実力があるんだそうで。
「これ、ただのモデルガンよ。もっとも、弾はBB弾じゃなくて麻酔弾だけどね」
 言いながら、彼女は自分の銃を見せてくれた。
 確かに質感こそそっくりだが、その材質はいかにもモデルガンのものである。
「本物は持たないの?」
「身を護るのは、これで充分なのよ。人を殺すまではしたくないから」
 リナの問いに、肩をすくめるミリイ。
 ジルさんは……というと、広げていた写真をすっかり片付けていた。まあ、見てもらう だけの目的で持ってきたんだから、もう出番はないだろうし。
「あの、ジルさん。あいつらはいつ頃から来るようになったんですか?」
「ああ。あいつら――か」
 スーツ姿の男たちについて尋ねた俺に、ジルさんはやや考えて。
「2ヶ月くらい前からかな。突然来るようになって、『電脳の女神』についての全てを 知りたい、とか言い出してな。
 その度に、『知らない』の一点張りで通してきたんだが、懲りていないようだ」
「その割には、あたしたちには色々と教えてくれましたよね」
「まあ、お前さんたちは一から知らないだろう?今まで説明したのは、ここの住人な ら誰でも知っていることさ。それに」
 リナのツッコミに、ジルさんは優しく笑って。
「お前さんたちは信頼できる。これでも、俺の見る目は確かだからな」
 と、さらに嬉しいことを言ってくれた。
 こうなると、何とも言いづらいものである。
 報酬と引き換えに、『電脳の女神』を捜してる、なんて事実は。
 それにしても、気になる。
 『それ』とは、さっき見た写真の中の少年たち。
 あの二人……どっかで見たことがあったようで仕方ないのだ。
 だから、俺は。
「ジルさん。ガーディアンについて、何かご存知ですか」
「……『ガーディアン』か。それが、キャナルとどう関係あるんだ?」
 引っかかりがあればと思って尋ねたが、逆にジルさんに問い返される結果となっ た。
 それでも、俺は説明することにした。『信頼できる』と言ってくれた以上、こちらの情 報も最低限掲示することが必要だろう。
「――ガーディアンってのは、正直言って俺もよくわかりません。ただわかってい るのは、彼らは『電脳の女神』を守護する目的で動いているってことだけです。ま あ、もっともさっきまでジルさんに吹っ飛ばされた連中じゃないって事は、わかって いますけど」
「そうだな。彼女を利用しようとしている奴らが、『守護』しているとは言わんだろう」
 いつの間にか置いてあるコーヒーを一口すすり、ジルさんが笑う。
 ミリイが、持って来てくれたものだ。俺にリナの分もある。
「そんな話、初めて聞くわよ。『女神』に仕えているガーディアンなんて」
 ジルさんの横を陣取って、ミリイ。
「ま、どっかで会ってる奴もいるだろうさ。俺みたいにな」
「……会った、だと?」
 俺の言葉に、ジルさんは小さく反応した。
「いや、まあ。会って早々に『関わるな』って忠告された程度ですけど」
 ぺらぺら手を振りつつ、話を続ける。
「それでも、俺は彼女を捜すつもりでいますがね。ミリイが真相を追っている、事故 のこともありますし」
「ミリイが追ってる真相?」
 こそっと横やりを入れてきたリナに、あっさりと頷く。
「俺なりに考えてみたんだが、どうも引っかかる部分がいくつかある。
 あの爆発は事故でした、はいおしまい。
 って、あっさりと決着つくのもおかしいし」
「お前さんも、あの爆発事故をおかしいと?」
 ジルさんの問いに、確信を持って頷く。
「ええ。それに、あっさりと警察が引っ込んだってのも気になりますし。そこで……」
 俺は、まっすぐジルさんを見る。
「もし、暇があればでいいんです。ジルさんの方で調べられることがあれば、協力し て頂けませんか」
「……俺にかい?」
「はい。恥ずかしい話ですけど、俺もリナもコンピューターには疎いんで」
 苦笑いしつつ、きっぱりと答える。
 ジルさんはしばし俯き。
「……分かった、協力しよう。俺も考えは同じでな、警察の出した結論には、どうにも納 得できないんでな」
「良かった。本当にありがとうございます」
 改めて頭を下げた俺に、ジルさんが手を差し出してきた。
 その手を、ためらいなく……
「い……いてててててて!!」
 サイバネティックギアの右手で力いっぱい握られて、俺が悲鳴を上げるのを。
「あ……通常モードに戻すの、忘れてた」
 ばつの悪い口調で、ジルさんはその手を緩めたのだった……。