魔法の剣士まじかる☆ケイン 〜3〜




「何じゃこりゃって……これがあなたなんですから」
 ムンクの叫びのような顔をしているまじかる☆ケインに、横からキャナルがどうしようもない現実を突き 付けてくる。
 正義のヒーローといえば。
 仮面ライダーとか。太陽戦隊サンバルカンとか。愛国戦隊大日本とか。
 強殖装甲ガイバーとか。超音戦士ボーグマンとか。
 あの辺を想像していたのに。
 しかも、カラーリングは赤か青で。
 ところが。
「共通してるの青ってところだけじゃねえか!!!」
「……何の共通?」
『案外、似合ッテマスケド』
 半泣きのケインに、冷静にキャナルと化け物がツッコミを入れる。
「うるへーっ!化け物のくせにぶちぶち言うんじゃねえ!!」
 びしっと指を差し、化け物に怒鳴りつける。
「そうよねー。男の人の服引っぺがして、あやしい写真撮るなんて考えするような化け物に言われたくな いわよねえ」
「ほのぼのと言うな。頼むから」
 腕を組んでうんうんと頷くキャナルに、ケインはさっくりツッコミを一発。
『……ソレはソウト』
 化け物が、急に真顔に戻った。もっとも異形の形をしているので、真顔なのかどうか分からないが。
『トラッターのミナサーン!』
『ティーっ!!』
「んなっ!!」
 化け物の声に反応し、アスファルトからにゅうっと人が出てきた。
 皆黒い全身タイツのようなものを着ている。のっぺりした顔つきに、長い手足。
 結構不気味である。見ようによっては。
「妖魔国の尖兵よ」
 ケインの前に立ち、キャナルが告げる。
「ってことは、こいつらはショッカーみたいなもんか」
「う、うん。多分……」
 ショッカーとか言われてもいまいちピンと来ないらしいキャナルだが、ケインの迫力に思わず頷いた。
「だったら、話は早い」
 ぺきぺきっ、と指の関節を鳴らし、にやりと笑う魔女っ子風スタイルのケイン。
 なかなかどうして、訳の判らない構図である。
「大丈夫よ、このくらいの雑魚ならあた……」
「おりゃあああっっっ!!」
 キャナルの声を聞かず、トラッターの皆さんに突っ込むケイン。
「って、話聞いてよー!」
『聞いてナイト思ウ』
 思いっきり傍観を決め込んでいたりする化け物である。
 しかし。
 ケインは、瞬く間に尖兵たちをぶちのめした。
 死屍累々と化したトラッターの皆さんを目前に、キャナルが唖然と呟く。
「……嘘でしょ?こいつら、人の邪気と悪霊から生まれているのに……」
「そんなもん、実体なんだからぶちのめすくらいできるだろ」
 ぴくぴくするトラッターの一人を足でふんずけ、ケインは手をはたきつつ答えた。
『……エエい、コウナレバ』
「ケイン、武器を!!」
「へっ、武器?」
「あなたのペンダントには、もう一つの力があるの。ペンダントに意識を集中して……きゃっ!!」
「キャナル!!」
 説明の途中で、キャナルは化け物に羽交い締めされた。
「あほっ!ぼけっと説明してる暇あるか!!」
『フフフ、トンで火にいル何とヤら』
「ちっとも様になってねえし」
『ホットケ。ソレはトモカク、オトナシク私のモデルにナラナイト……コノ娘ヲ殺すよ!!』
「……モデルっすか……」
『ウン。ワタシノやおイ漫画ノ』
「誰がなるかっ!!」
 握りこぶしで、一発否定。
 それよりも、その一言で完全にキレていた。
 もともと、女顔のケインである。それを、男同士とあやしい関係になるようなネタにされては。
 いろんな意味で、腹が立つ。
 その気合いが、ケインの集中力を高める結果となった。
 胸元のペンダントが、青い光を放ち始める。
 ケインはそれに驚くことなくペンダントに意識を集中した。
 唇が、勝手に新しい言葉を生む。
「……マジカルブレード!」
 と。
 ペンダントから、眩い光が放たれる。
 ケインはその光に手を伸ばすと、やがてそれは収まった。
 代わりに彼の手に握られているのは、一振りの光の刀身をたたえた剣。
 柄と刀身の切り返しは、あのペンダントのモチーフと同じデザインだ。
「キャナル!」
「……えいっ!」
『ンナっ!?』
 ケインの声に、キャナルは何事かを小さく呟く。
 すると彼女の身体がするすると小さくなり、化け物の手から滑り落ちた。
「ケイン、やっちゃえ!」
「おっしゃあ!」
 剣を正眼に構え、化け物と対峙する。
 そして。
「一刀……両断!!」
 ケインの気合いと共に振り下ろされた剣は、見事に化け物の身体を切り裂いた。
『あ、ア……』
 断末魔と共に、化け物の身体が四散する。
 光と共に砕かれた後には、ぐったりと横たわる女性の姿があった。
 一方四散した光は、きらきらと輝きながらケインの手元に収まると、それは小さな瑠璃色の破片と変化 した。
「これが、紋章の欠片?」
「そうよ。これを完全な形にするのが、あなたの仕事」
「へ?」
「だから、これからはあなたのサポートとして付いていくことにするから。よろしくね、ケイン」
「マジかああああっっっ!!?」
 ケインの絶叫が、またもやこだました……。


 次の日。
 ちゅどどだごがああんっ!!
 ミリイの料理の完成と共に、ケインはダイニングに下りてきた。
「おはよう、ケイン――どうした?浮かない顔だな」
「おす、兄貴。いや、ちょっと昨日……色々あってさ……」
 新聞に目を通しているナイトメアに挨拶をしているケインの表情は、確かにげんなりしていた。
 当然と云えば、当然である。
 あれから、キャナルの結界が解けたと同時に変身も解除されたのはいいとする。
 ただ、そこから先が大変だったのだ。
 裸で固まっていた高校生を叩き起こして服を着せ、自分も用事のために慌しく移動しなければならな かったのだ。
「……ところで、この間からの事件はどうなったのだろう?」
「何」
「ああ。十代から二十代の男性ばかりを狙った、通り魔的な変質者の事件だ」
「もう大丈夫なんじゃねーの?」
「そうか?」
「ああ。何せ……いや、何でもねーや」
 ぱたぱた手を振り、ケインは慌ててその場を取り繕う。
 その事件を解決したのは自分だと、言いたくないのだ。しかも、あんな姿で。
 ふと、テーブルの料理に目をやると。
「……あれ。四人分?」
 彼の言葉のとおり、いつもなら三人分並んでいるはずの食器が1セット増えているのだ。
「ああ。それか?今日からうちに、一人一緒に住むことになった子がいるんだ……そろそろ降りてくるか な」
 言って、ナイトメアは階段に目をやった。
 と。
 ケインの目が点になった。
「……おはようございます。ナイトメアさん」
「おはよう、キャナル――紹介しよう。彼女は以前、婆さんに色々と世話をしてもらっていたらしいんだが。 ――キャナル=ヴォルフィード嬢だ」
 ナイトメアの紹介を受けて微笑む少女は、昨日あの姿に変身させた妖精国の少女であった。
 ただ、額のモチーフがないことを覗いては。
 着ているのは、ミリイの通う高校の制服である。
「おはようございます。よろしくね、ケイン」
「な……」
 ぱくぱくと口を上下させるケインに、呆れたようなミリイの声が飛ぶ。
「何金魚みたいな顔してるのよ、ケイン。あ、おはようキャナル。今日から、同じ高校に行くのよね」
「はい。宜しくお願いしますね、ミリイ」
 にこやかに会話を弾ませる三人をよそに。
「どうなってんだよおおおっっっ!!!」
 朝も早よから、ケインの絶叫がご近所に響いた。


 ケインの恥ずかしい戦いの日々は、まだ始まったばかりである。